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2010年3月19日 (金)

池尾先生からアゴラで反論を受ける。

3月11日に書いた私の記事に、光栄なことに池尾和人先生から反論をいただいた。

コチラ⇒http://agora-web.jp/archives/961316.html

それに対して、幾分かの再説明及び反論を試みることにします。

そこで紹介されているような「きわめて合理的な借入行動」による残高というのはどの程度のものになるのか?

例えば、給料日前に1週間、2万円を毎月借り入れるということをしても、
 2万円×7日×12÷365日=約4600円
の年間平均残高にしかならない。1年中2万円借り続けているわけではないから、年間の平残は2万円よりも低くなる。そうした行動を2000万人がとったとしても、

 約4600円×2000万=約920億円
である。残高は、1000億円にもならない。

とのご指摘ですが、まず、返済期間がなぜ1週間になるのでしょうか?

一週間後の給与で利息のかからないようすぐに返済するというのが経済学的には「極めて合理的」行動ですが、それならその翌月は2万円と利息分だけ手取りが減り、また借入が必要です。したがって、現実には当月でなく翌月の給与で精算する、あるいはボーナス時期に精算するというのが実際の行動でしょう。収入が限られている以上返済できるときに返済するのが個人としての合理的な行動であり、理論どおりいかないものと考えます。

次に借入残高は、ある時点での残高であり、平均残高ではありません。したがって、2万円の残高があれば2万円×2000万人=4000億円になります。この金額自体ご指摘の通り、ストックとしてはたいした額ではありませんが、フローではどうでしょうか?

実際のデータを見てみましょう。金融庁の業態別借入件数・平均貸付残高によると

消費者金融が1335万件     6兆5865億円  (平均単価493千円) 

クレジットカード会社が1544万件  1兆9588億円 (平均単価127千円)

信販会社が3350万件      4兆4307億円(平均単価132千円)

であり、幾分かの重複があるとは思いますが、6230万件の借入が期末に存在しています。私が想定しているケースでは、クレジットカード会社や信販会社の利用が多いと想定されますので、それでも4900万件近くの利用があります。

しかも、この金融庁の統計では期末残高時点では残高のない件数は含まれませんから、実際の利用回数は膨大なものになるはずです。

例えば私がよく知る信販会社の平成21年3月末時点の有価証券報告書では、残高3482億円で、年間新規の与信件数は、868万件、利用件数は1985万件、取扱金額は4656億円となっています。この比率と同じ比率で残高から累計取扱件数と取扱金額を推計するとクレジット会社・信販会社では年間3億6千425万回のキャッシングが行なわれ、累計8兆5428億円が貸し出されているわけです。

池尾先生が指摘されるように

平均が57万円で、一方で「きわめて合理的な借入行動」をとる者が本当に「相当数」いるのであれば、他方に数百万円とかの借り入れを長期間繰り替えしている者も相当数いなければならない。しかし、例えば300万円とかを20%を超える高金利で借りてしまうと、利払いだけで月々5万円以上ということになって、大変な負担となる。しかも、月々5万円以上の金利を払い続けても、いつまで経っても残高は減らない。

こうした現実的事態があるから、過剰貸し付けだといわれるわけである

という点は、確かにその通りであると思う。

しかし、上記で挙げたとおり、フローでみるとそうではない人が極めて多数存在することが理解いただけるのではないでしょうか?金融庁は、フローのデータも集めていませんし、報告している実際の借入回数について不正確な公開しかしていません。リボルビング払いの平均回数や1回払いの件数、1回の借入金額やその分布そして回数分割払いの情報収集を行なっていません。調査権限があるにも拘らずです。そして特定企業の(たぶんターゲットなる企業)のデータを提出させただけです。

しかも、公表されている金融庁の統計の内容もよくわからないことが多い。

例えば、平成21年3月末現在の「消費者向け貸付残高」は、

貸付残高の推移 では15兆7281億円 

業態別貸付金利では、無担保残高として13兆2699億円

消費者向け無担保貸金業者の貸付残高 では6兆565億円

しかもこれは、業態別の貸付残高 の7兆2853億円とも異なります。

少なくとも、もっと全貸金関連産業的のデータを整備し、あるいは追加調査し、その上で議論されるべきであったと思っている次第です。

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コメント

業態別貸付件数の7兆2853億円には、無担保ではない融資が含まれています。
http://www.fsa.go.jp/status/kasikin/20091013/15.pdf
この資料の中では、「うち無担保件数」と別に集計されていて、
http://www.fsa.go.jp/status/kasikin/20091013/16.pdf
こちらの資料の数字と完全に一致しています。
また、後者の資料では、「(注1) 上記は、各業者の平均約定金利に基づき金利帯ごとに分類したものであり、当該業者のすべての消費者向無担保貸付残高及び件数を計上している。」と、「無担保貸付残高」と書いてあります。

もう1つ。信販会社などで、統計に含まれていない、短期で少額の融資があるとしても、それらは総量規制の影響も受けなければ、金利規制の影響も受けないはずです。もし金利負担額が手数料を下回り、割に合わないのであれば、業者は相応の手数料を取ればよいだけです。

投稿: Disequilibrium | 2010年3月19日 (金) 13時57分

Disequilibriumさんご指摘ありがとうございます。
ただ、
>信販会社などで、統計に含まれていない、短期で少額の融資があるとしても、それらは総量規制の影響も受けなければ、金利規制の影響も受けないはずです。

という点は、異なります。
信販会社も貸金業者である以上、短期であろうが、小額融資であろうが、融資である以上金利規制、総量規制ともに影響があります。
以前から指摘していますように、あるグループ企業で、その会社の従業員に福利厚生資金を貸付するのは貸金業法の適用除外ですが、当該法人の出資会社(子会社といえども)の従業員貸付する場合でも、貸金業登録が必要で、個人信用情報機関の情報の調査義務があり、結局総量規制の対象になっているくらいですから。

投稿: 品川のよっちゃん | 2010年3月19日 (金) 14時10分

ご指摘ありがとうございます。
規制に伴う手続きなどは発生するわけで、何も影響がないというわけではないのですね。

投稿: Disequilibrium | 2010年3月20日 (土) 00時14分

本件について、Isologueでコメントいただきました。
http://www.tez.com/blog/archives/001603.html
ありがとうございます。

投稿: 品川のよっちゃん | 2010年3月20日 (土) 00時28分

私は貸金業界には興味はないのですが、最近2年ほど会社で法務・コンプラに携わる部署におり、後学のため教えていただきたく。(アゴラからこちらに来ました)
(1)「借入残高はある時点での残高であり平均ではありません」について。
管理人さんの説明では「ある時点での残高を見た時に2000万人全員が借り入れている状態」ということになります。これはそもそもの管理人さんの説である「短期かつ少額利用者も多い」説の「短期」とは矛盾しないでしょうか?
むしろ「2000万人が各々ばらばらに(少額を)一定期間借り入れている」として、任意のある1日の残高を推定するので「借入金額×期間×12カ月÷365日」によって1日の残高、即ち平均残高を採用するのが妥当ではないでしょうか?もちろん全員が借りっぱなしであれば「期間×12カ月」が365日になり平均残高はここでいう2万円になります。
(2)「フローではどうでしょうか?」について。
利用回数が貸付残高に関係あるのでしょうか?仮に2万円×50回(毎週借りて返してを繰り返す)利用しても残高はあくまで2万円であり「100万円」とはならないと思うのですが間違いでしょうか?ここでフローを持ち出す意図というか論理的つながりがうまく消化できないので少し理解を助けていただきたく。
(最後に)冒頭「なぜ返済期間が1週間になるのでしょう?」は、私が見るところ、管理人さんのエントリー「掠奪的な貸付は…」の論旨展開「15兆円もの貸付市場に育ったのは借り手の合理的行動による」「夜中に引出手数料払うより消費者金融使う利息の方が安い」という説明に対応しているのでは?管理人さんの反論の「合理的行動」(借りたものをボーナスで返す)は結局債務地獄に陥る典型例に見えます。管理人さんの説明では「今月でも翌月でも月給で精算したらその月同額不足が発生する」と読めます。
私の知識や理解が浅いので、前提条件や基礎知識がないためにひっかかっているのではないか思い、その部分を補完したく長々と質問させていただきました。

投稿: くり | 2010年3月20日 (土) 23時50分

くりさん 
私は別に経済的な分析を展開をするつもりはありません。残高については、もっとも利用者が集中する月末時点での数字であること、期間についても経済学的な「合理的行動」であれば、常に最短期間となるのでしょうが、返済システムと現実の返済までの行動を考えると常にそのような行動をとることが現実的でないことが多いということを示し、それが「非合理的行動」とまでは言えないということを言いたかったわけです。
そこで「短期・小額な借り入れをする層」で最終的には過重債務に陥る者がいる一方で、大多数は合理的行動を行っていることを言いたいわけです。消費者金融会社は一時期大もうけを行っていますが、カード会社。信販会社は比較的低金利で実施していたのでそうではありませんし、取引期間の長さや過払い金発生前の不良債権の発生状況を見ていけば、一定割合の健全利用層が見えてきます。また、個別の会社の一人ひとりのデータを見ればわかるのですが、金融庁の公表しているストックだけのデータからはわからないわけです。
3月12日から2つの信用情報機関が相互に名寄せしての交流を始めましたが、そもそもそれ以前の貸金債権の情報は、旧jicにより提供されていただけで、たとえばクレジット会社やリース会社の加入するcicを含めた実際に借り入れがある人の数などわかっていないのです。全体の本当の利用者実数や利用回数当たりの利用者分布、一利用単価別の利用者の分布、支払い回数別分布や支払金額分布、平均借入期間等の基本的と思えるデータについて貸金業者(クレジット会社等を含めたもの)の全体の数字がなさすぎなのです。

投稿: 品川のよっちゃん | 2010年3月21日 (日) 02時20分

フローの件ですが、「小額、短期」の「合理的行動」を取る人が現実にはどれくらいいるのかは、長期・高額の残高を反映する残高という指標ではわからないから、たとえば2万円を7日間借りた人延べ何人いたのかを見なければわからないでしょう。
なお、海外でのキャッシングは、今までショッピング扱いですから貸金の統計データにはほとんど反映されていません。
これらの小額短期のフローの取扱額が(残高的には少ないゆえに)健全利用者の受ける利便性を反映しているのではないでしょうか。

投稿: 品川のよっちゃん | 2010年3月21日 (日) 03時50分

早々に回答いただきありがとうございました。
「少額・短期の利用者はその利用回数が多い。即ち便利に利用しているけれどもそれは残高には現れてこない」という意味でフローのことを指摘されていると理解しました。
そもそもの論点(掠奪的貸付)については、管理人さんと意見は異なりますが、おかげさまでおっしゃている説明は分かりました。
お手数おかけしました。

投稿: くりガナーズ | 2010年3月22日 (月) 11時20分

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