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2011年12月 2日 (金)

過払い金の返還額は、増えるのか?~平成23年12月1日最高裁判決に関する報道

今朝の新聞は、昨日の最高裁判決について、「過払い金利付け返還」とか「利息付け返還義務」などの見出しをつけて報道している。

しかし、ややピントがずれているように感じる。なぜなら、以前から過払い金返還請求において民法704条における①「悪意の受益者」に該当し、利息を付与すべきであるか、②「その際の利息は民事法定利率の5%なのか、商事法定利率の6%なのか」という問題があったが、現在ではほぼ決着済みである。

まず、②の利率については、不当利得返還請求が商行為から直接生じた債権ではなく、民法の規定に基づく一般債権と考えられ、消滅時効が商事消滅時効の5年ではなく、民事債権として10年と解されていることからの整合性として最近の判例はほとんど5%とされている。

本題の①については、「悪意」とは、貸金業者が利息制限法超過の利息を受領することが不当利得となることを知っていたということであり、「悪意の受益者」と認定されるかどうかは、貸金業規制法(旧法)43条のみなし弁済の要件を満たし、利息制限法超過利息の受取が支払者の「任意」弁済であったかと立証できるかどうかに、かかっていたのである。

みなし弁済が適用されるかどうかは、貸金業規制法43条が定める「書面交付の要件」を満たした上に、それにくわえて「任意性」が必要とし、その「任意性」について制限利息を含む支払の過怠が期限の利益を喪失するとする期限の利益喪失条項が存在する場合には、認められないとしたのが平成18年1月13日をはじめとする最高裁判決であった。

周知のとおり、この最高裁判決までは、平成10年以降「書面性」の充足要件を厳格に解釈し、18条書面(受取証書)については、交付の必要性の有無に始まって、交付の時期の即時性へ向けての厳格解釈、記載事項・内容についての厳格解釈、会員番号の記載による契約期日、契約金額不記載の大蔵省令の違法問題に行き着いたのである。

また、17条書面(貸付け時の書面)に関しては、個別の貸付け契約時の書面交付の厳格解釈を行い、こちらのほうは平成17年12月15日判決で、特にリボルビング方式による貸付けの場合に、確定的な返済回数、返済期間、返済額の記載に準ずる記載の欠落を理由に、みなし弁済の成立を認めず、過払い金の返還を認めてきたのである。

今回の最高裁判決は、改めてこの17条書面のリボルビング方式の際の記載が明確でない場合にみなし弁済が認められないとする平成17年12月15日判決以前について「悪意」性を否定する平成19年判決のいう「特段の事情」があるといえないとしたものである。

要は、平成19年判決においては、平成18年1月13日判決は下級審の判決に皆無で、学説にも全く見られなかった「任意性」の否認法理を突発的に採用したが、平成17年12月25日判決の「書面性」否定の論理はそれ以前に下級審の裁判例や学説がないわけではなかっただろう、だから「特段の事情」というほどの事情はないじゃないかというものである。

従って、新聞報道にある、「『貸付時に業者が返済期間や返済金額を記載した書面を債務者に渡さなかった場合は、過払い金は利息を含めて支払うべきだ』とする初判断」というのは、全くの勉強不足であると指摘せざるを得ない。

正確には、利息制限法超過利息を受け取っていた貸金業者が、「悪意の受益者」となる時期について、1つの判断がなされというのが正解である。

また、明確に何年何月何日以降は悪意であるという明確な判断は平成19年判決同様なされておらず、平成17年12月25日判決の根拠とする判例や学説の見られなかった時期には適用がないと思われるし、証書貸付など確定的な返済期間、返済金額、最終返済期日が明確な貸付けにとっては、依然として平成18年1月13日以前は、「悪意ではない」状態には変わりないという点が見落とされているのではないか。

更に付言すると、いわゆるカード式の返済に全部適用されるかどうかにつても、別の問題がある。

今回の裁判で引用される17年判決のリボルビング方式の貸付けがされた場合において,個々の貸付けの時点で,上記の記載に代えて次回の最低返済額及びその返済期日のみが記載された書面が17条書面として交付されても,上記の趣旨・目的が十全に果たされるものではないことは明らかである反面,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をすることは可能であり」としている点の評価にかかっているからだ。

現在の貸金業法では、171項の貸付け時の書面について、リボルビング方式については、

    各回の返済期日及び返済金額

 旧利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超えないものを締結するときは、次回の返済期日及び返済金額をもつて代えることができる

    複数の借入があるときの各回の返済期日返済金額締結した極度方式貸付けに係る契約の各回の返済期日及び返済金額の記載に代えて、残存する債務と  

合わせた債務に係る将来の各回の返済期日及び返済金額を、当該契約の次回の返済期日及び返済金額の記載に代えて、残存する債務と合わせた債務に係る次回の返済期日及び返済金額を記載することができる。(貸金業施行規則13条第1項第1号チ)とされている。

その前提として、リボルビング方式の契約前と契約時に「各回の返済期日及び返済期日の設定の方式」(同施行規則12条の2第2項第1項チ、13条第3項1号チ)とし、個別貸付けを行なう際(すなわち今回の最高裁判例の判断の対象となった書面の交付時点)には、貸金業法17条6項の「一定期間に締結したそれぞれの極度方式貸付けに係る契約の各回の返済期日及び返済金額又は次回の返済期日及び返済金額」同施行規則13条第6項第1項ヨにおいて、

    当該契約と同一の極度方式基本契約に基づく返済の条件が同種の他の極度方式貸付けに係る契約の債務が残存するときは、締結した極度方式貸付けに係る契約の各回の返済期日及び返済金額の記載に代えて、残存する債務と合わせた債務に係る将来の各回の返済期日及び返済金額を、当該契約の次回の返済期日及び返済金額の記載に代えて、残存する債務と合わせた債務に係る次回の返済期日及び返済金額を記載することができる

    それぞれの極度方式貸付けに係る契約の各回の返済期日及び返済金額又は次回の返済期日及び返済金額の記載に代えて、一定期間の最後の日における残存する債務(同一の極度方式基本契約に基づく返済の条件が同種の極度方式貸付けに係る契約の債務が複数残存するときは、合わせた債務)の将来の各回の返済期日及び返済金額又は次回の返済期日及び返済金額を記載することができる。

とされており、最高裁判所のいう「確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載」が認められている。

しかし、新貸金業法にこのような代替規定が設けられたのは、最高裁判決に金融庁が従ったのではなく、消費者金融業者の準消費貸借説()に立つリボルビング方式では、この「準ずる記載」しか実際に記載は不能であることが明白だからである。(この点も認識されていないかもしれない)

しかも、自由返済方式では、返済の方式に仮定を置かねばこの算出すらできないのである。(従って、平成17年判決が極めてハードルの高い、独自の書面交付用件の厳格解釈を行なったか、という問題も提起できるが、今回は省略する)

本題は、私が再三指摘しているリボルビング式の定額弁済の場合である。

「リボルビング方式」というのは、繰り返し貸付けを受けることができるものを指し、その「返済方式」には、「定額返済」、「定率返済」「残高スライド定額返済」「自由返済」の4種類の方式がある。そして、その返済のための「利息計算の方式」には、残債一括計算方式(「準消費貸借説」)と個別残債計算方式(「個別債権残存説」)とがあるのである。また、リボルビング方式のようにカードを使って繰り返し与信が受けられ、「回数指定分割払い」「翌月一回払い」の返済方式のあるカードキャッシングもある。

平成17年判決で対象となったリボルビング契約は、残債一括方式で、自由返済方式である。従って、個別残債計算方式により、定額返済で契約したリボルビング式の貸付け契約の場合や回数指定分割払いのカードキャッシングの場合は、取り組み当初から、簡素化書面(ジャーナル)とマンスリーステートメント(カード利用代金請求明細書)において、返済期日、返済金額について全期間の完全な表示がなされていたのである。したがって、「これらの記載により,借主が自己の債務の状況を認識し,返済計画を立てることを容易に」行なうことができたのである。したがって、この点に関する限り、17条書面不交付とはいいがたいと考えられる。もちろん、その他の要件で過去の判例が出ており、現在では、実際にみなし弁済が事実上認められていないのであるが、どの程度まで利息の付利が遡及するか、過払い金充当合意があるとは認められない契約の充当関係や時効関係の判断もあり、一概には言えないのではないかと思う。

従って、弁護士が

「『すべての過払い金返還請求に影響を及ぼす。消費者金融業界全体で5700億円以上の返還増になると計算できる』と評価した」ことには、違和感と算出根拠に疑問を感じる。

一方、「プロミスは『判決は残念だが、今回の判断がすべての契約に一律的に適用されるわけではなく、個々のケースによって異なるため、経営への影響は限定的と考えている』とのコメントを出した。」とのことであるが、これが正解であろうと考える。

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