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2012年6月16日 (土)

法科大学院の入学者の減少と合格率の低下だけでなく、累積合格率を見て、就職問題まで考えてみよう。

文部科学省によると今年の法科大学院73校の入学者は3,150人とのことで、定員4,484名より、1,300人余りも少なく、63校が定員割れとなったようである。→記事はこちら

合格者は、6,522人であるから、平均して2.1校合格し、入学辞退者が多かったということか。それにしても総受験者が1万6519人とは、少なすぎる。複数受験が可能であるから実数は、1万人を切っているのかもしれない。

平成16年度の72,800人は、別として、平成17年から20年度にかけてはほぼ4万人が受験していたのに、平成21年度からは1万人以上落ち込み、平成23年度まで2万人台に落ちていたのが、とうとう1万6519人と一万人台に落ちてしまっている。

原因は、合格率が当初公表された6~7割の合格率ではなく、一番高かった平成17年度で48.3%、平成21年度からは20%台であり、昨年度が最も低い23.5%と合格率が低く、またなんとか合格しても弁護士としての就職がかなり厳しいということにあるものと考えられる。

もしロースクールに行って、司法試験合格を目指そうかと悩んでいる法学部生や法学部出身者がこれを読んでいるなら、以下の点を考えてほしい。

①合格率は本当はどのくらいなのか。②本当に就職は厳しいのか。という点である。

①については、法科大学院を修了すると3回まで受験資格がある。その3回でいったい何人が合格しているかである。これについては、中央教育審議会大学部会法科大学院特別委員会に提出された今年5月24日の資料がある。

この資料には累積合格率が示されており、既習者に限れば平成17年度修了者以降平成20年度修了者までの累積合格率は60%を超えていることに注目すべきである。平成21年度修了者も57.8%と3回受験生減という枠で見れば、当初のほぼ見込通り6割を保っているのである。(22年度修了者は、38%であるが、少なくとももう1回のチャンスがあるので、50%台には到達するのではないか?) つまり、一緒に終了した人の約6割の人は目的を達しているといえる。法学既修者にとって、法科大学院をきちんと修了すれば、合格レベルに達するには時間の差があるものの、どんどん合格者が輩出するので、従前の制度からすると目的達成は格段に向上しているのである。

次に②就職の面である。

これは、司法試験合格者としての可能な仕事、求められる役割は何か、改めて考える必要があろう。T6億に弁護士業務について、国民のほとんどは、裁判、訴訟と考えている傾向がある。また、法科大学院進学者も裁判官、検察官および弁護士になることだけが目的となっているように思われる。

しかし、一連の司法制度改革の論議の中で、新司法試験制度について経営法友会からの提言でも述べたが、「法曹資格者」を「法化社会」の中で活用するニーズが高まったから、司法制度の改革や司法試験の合格者の増加に舵が切られているのである。→ 経営法友会提言

http://www.keieihoyukai.jp/opinion/opinion7.html 司法制度改革に関する提言

http://www.keieihoyukai.jp/opinion/opinion10.html 司法制度改革審議会中間報告に関する提言

これらを読めば、経済界は、当初から現在の状況を予測して、法科大学院構想自体に疑問を呈していたことがわかろう。裁判官・検察官・弁護士だけを新司法試験合格者においても供給しようという「法曹三者の枠組み」を見直すことなく、数だけを増加すること、その場合に懸念される競争激化や大学法学部との役割の見直しなど何も手を付けないまま実施しようとすることに当時から警鐘を鳴らしていたことがわかる。

経営法友会の提言は、「現行の司法試験を見直して、選別試験ではなく新たな資格試験とし、合格者も現在の司法試験の規模から大幅に増員する。この試験の合格者には「弁護士資格」を付与し、さらに一定の実務(社会人としての経験)を2~3年以上経験した者から裁判官、検察官を採用する仕組みとする。」(「司法制度改革に関する提言」法曹資格制度の改革)であったが、これを顧みることなく、現行のいきなりフル装備の資格を与える新司法試験と法科大学院になってしまった。これに賛成したのが弁護士会自身であったにもかかわらず、「『紛争解決の担い手』としてではなく、『予防法務の担い手』として弁護士のあり方を見直し、弁護士自身が競争を高めて市場を開拓することや、広域にわたる大規模な経営形態をとれるよう弁護士・法律事務所のあり方を改め、こうした様々なタイプの法律事務所が、適正なバランスで社会全体に配置されることが重要である。 」(同)との指摘を活かせなかった点にも問題があろう。

しかし、ともかく、制度ができ、資格を有する以上それを活用するのは当然であるから、これを活かすべく検討しなければならない。最近は、就職難に伴い、国家公務員や地方公務員、企業に就職する人も増加している。しかし、「やむを得ず」公務員やサラリーマンになったのではもったいない。企業においては、ゼネラリスト志向から、スペシャリスト志向になっており、高齢化社会の中で定年以降も働かねばならない時代で供給過剰な状況にあっても、、特に優れたスペシャリスト・技術者のニーズは、国内外に根強いものがある。法曹資格も、企業においては訴訟や紛争対応よりむしろ、内部管理体制整備やコンプライアンス体制の構築・維持にシフトし、重要が大きくなっている。特に上場企業については、顕著である。また、法曹資格者が「商品開発」「システム開発」の面でも重用され、営業面でもその資格活用が検討されている。法的なものの見方考え方が業務面でも力を発揮するからである。

弁護士事務所においても、大規模事務所や専門分野に特化した事務所では、民間企業への弁護士の定期的な派遣や出向などにより、企業と同レベル以上の専門性の獲得に注力している。企業に在籍しながら、弁護士事務所に出向することも考えられる時代である。

一般的な学生における就職の際の基本原則である「何をやりたいのか」「何ができるのか」の基本から考える必要があるが、学生からそのまま法曹資格を取った人にこの基本がわかっていない人が多い。この基本さえ整理できれば、法曹資格という有力な資格を持つ人にとって、就職問題は、ぜいたくな悩みに過ぎないのではなかろうか。

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コメント

いかにも人ごとって感じの空論ですね。現実離れした物言いがすばらしい。これでも社会人ってやっていけるんですね。by社会人

投稿: 社会人 | 2012年8月 7日 (火) 18時46分

>社会人さん

コメントありがとうございます。
今まで法務部で弁護士3人に法務部ではたいていただいてました。
新司法試験制度開始以来、和光のほうの研修の様子も見学させていただき、新司法試験の修習生も累計で100名を超えて、お話しさせていただきました。
ロースクール生は、10校近くやはり100名前後の方とお話しさせていただきました。
某ロースクールでは過去自己評価委員会に参加させていただいておりまして、そのようなもろもろの経験からの雑感を書かせていただいております。

投稿: 品川のよっちゃん | 2012年8月 7日 (火) 22時51分

「就職問題はぜいたくな悩み」全く同感です。
修習修了者が社会で使えるかどうかはともかく、リーガルマインドはどこにいっても活用できます。

そもそも、事業経営の初歩はほぼ全て法律。
事業を立ち上げる人は、法規制・手続や各種契約のために、必死で勉強したり、追いつかずに失敗したりするのです。
いかに金を稼ぐ才能があっても、ここでつまずくとなかなかつらいものがあります。

つまり、法曹はなったときから事業経営のプロフェッショナル。
「就職があ~」などと言っている時点で、自分の武器を活用できない人材と、厳しい見方をすればそういうことだと思います。

またあんだけ勉強すれば、法律事務所でも他の事業でも、何でもやれるさと。
そんな風に思えるほど勉強してから法曹になって欲しいですが、ずいぶんぬるくなりました。

投稿: youyat | 2012年8月17日 (金) 13時48分

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