« とうとう貸金業者数が2000社を切ってしまった。 | トップページ | 第10回貸金業務取扱主任者試験を振り返って »

2015年9月16日 (水)

平成27年9月15日最高裁判決を検討する。

久しぶりに過払い金に関する重要な最高裁判決が出された。

  ⇒ 最高裁平成27年9月15日判決要旨。 

NHKのニュースなどによると、過去に調停で一旦債務整理したあとでも、あとで過払い金があることがわかっても、取り戻せますよ、的なトーンになっている。

このままだと、毎日見聞きするテレビとラジオの特定法律事務所、特定司法書士事務所のコマーシャルの聞き飽きたナレーションが、来週辺りから変更になるのではないかと思われる判決である。

 

しかし、判決を見ると、適用ケースはきわめて限定されるものではないかと考えられる。

以下、最高裁判決に従って検討してみよう。

 

事案は、昭和62年から平成14年4月1日まで、上告人に吸収合併された貸金業者ABとの継続的金銭消費貸借契約に基づき、利息制限法を超過する利息の契約の元で、金銭を借り入れては、返済してきた顧客が特定調停を申し立てた結果、特定調停が成立して、残債務があるとして、その残高の確認と、支払約束、清算条項を定めた調停が成立したが、取引全体としては、調停時点で過払い金が発生していたことから、この調停を無効として、過払い金の返還と民法704条所定の利息の支払いを求めたものである。

 

ここで、留意すべきは、

本件確認条項において確認された被上告人のAに対する残債務額は,本件調停の調停調書の「申立ての表示」欄に記載された借受け及びこれに対する返済を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算した残元利金の合計額を超えないものであった。もっとも,A取引全体の借受け及び返済を同法所定の制限利率に引き直して計算すると,本件調停が成立した時点で,過払金234万9614円及び法定利息2万7621円が発生していた。

 

という点である。

つまり、特定調停では、被上告人は、貸金業者Aに対して、

「申立人と相手方との間の平成10年3月11日締結の金銭消費貸借契約に基づいて,申立人が相手方より同日から平成14年3月20日までの間に18回にわたって借り受けた合計金207万8322円の残債務額の確定と債務支払方法の協定を求める申立て」

をしたのであって、実際にAと取引した「昭和62年から平成14年4月1日まで」のすべての取引が対象となっていなかったのである。

 

従って、調停条項では、借受金が元利合計金44万4467円であることを認め(「確認条項」)、これを23回の分割払いで支払うこと、「本件に関し、本調停条項に定めるほか、被上告人とAとの間にはなんらの債権債務がないことを相互に確認する」(「清算条項」)との内容が定められている。

 

このような特定調停に基づく、調停が成立していたのであるが、A取引全体の借受け及び返済を同法所定の制限利率に引き直して計算すると,本件調停が成立した時点で,過払金234万9614円及び法定利息2万7621円が発生していた。」のであって、原審では、過払い金があるにもかかわらず、残債務があるとした調停内容は利息制限法に違反するものとして公序良俗に違反し、無効であるとし、清算条項についても公序良俗違反を理由として無効として、過払い金返還請求を認めていた。

 

最高裁第三小法廷では、原審が「特定調停は公序良俗に反し、無効である」との判断を退け、「本件調停における調停の目的は,A取引のうち特定の期間内に被上告人がAから借り受けた借受金等の債務であると文言上明記され,本件調停の調停条項である本件確認条項及び本件清算条項も,上記調停の目的を前提」となっており、その限りにおいて「本件確認条項は,上記借受金等の残債務として,上記特定の期間内の借受け及びこれに対する返済を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算した残元利金を超えない金額の支払義務を確認する内容のものであって,それ自体が同法に違反するものとはいえない。」として無効とはしなかった。また、清算条項についても、無効とは扱わず、「取引全体によって生ずる被上告人のAに対する過払金返還請求権等の債権を特に対象とする旨の文言はないから,これによって同債権が消滅等するとはいえない」とした。

 

つまり、簡単にいうと、原審は、特定調停が公序良俗違反だから無効として、改めて過払い金の返還請求を認めたが、最高裁は、特定調停の調停条項の効力はある、しかし、それは、あくまでもA取引の特定期間に関する調停条項であって、A取引全体に及んでいないので、A取引の全体を対象とする本件過払い金返還請求に対する効力は認められず、過払い金の請求に制約はないとして、過払い金請求を認めたのである。

 

結論的には、過払い金返還請求が認められており、救済に差がないように見えるが、貸金業者にとって、この差は大きい。

 

第一に、既に特定調停や通常の調停において、過払い金請求権を有する顧客と当該貸金業者間で当該当事者同士の特定の期間を対象にした調停が成立している場合において、手続きが金銭債務の有無やその内容の確定等を行うことを当然には予定しておらず、全体として利息制限法を超過しない額の支払いにとどまる限りは、これが無効とはならないと最高裁が考えていることが明確になったことである。

 

従って、例えば、長期間の継続的金銭消費貸借取引があったが、約定弁済が完了するなどして一時期取引に中断があり、その後取引が再開された場合で、中断後の取引全体を対象にした特定調停、調停、和解などが行われ、当該期間を対象とした引き直し計算に基づく残債の確認と支払い条項が定められれば、それは有効ということである。

 

第二点目は、清算条項についてである。

最高裁判決は、「本件清算条項に,A取引全体によって生ずる被上告人のAに対する過払金返還請求権等の債権を特に対象とする旨の文言はないから,これによって同債権が消滅等するとはいえない。」としている点に注目したい。

 

特定調停条項には、「被上告人とAは,本件に関し,本件調停の調停条項に定めるほか,被上告人とAとの間には何らの債権債務のないことを相互に確認する」との確認条項が定められていた。

これが、もし「被上告人とAは,本件調停の調停条項に定めるほか,Aとの取引全体によって生ずる被上告人のAに対する過払金返還請求権等の債権を含め、被上告人とAとの間には何らの債権債務のないことを相互に確認する」との確認条項であったならばどうであっただろう。

 

上記の例のように継続的取引が中断し、中断後の取引のみを対象とした調停・和解条項において「取引全体によって生ずる顧客の貸金業者対する過払金返還請求権等を含め、一切の債権債務のないことの確認」条項は、無効とされる可能性はきわめて低いのではないかと考えられる。
(追記:このように考えるのは、同一の継続的金銭消費貸借契約ではあるが、中断前の継続的な借り入れと返済による完済があって、当時発生した過払い金返還請求権を行使することなく、一定期間の空白期間後に新たに借り入れを行う場合、中断後のあらたな一連の借り入れが「過払い金充当合意」のある借入といえるか、判断が分かれていることにある)

 

今後、本最高裁判決を元に、新たな掘り起しが始まる可能性が高いが、ケースごとに本判決の射程か否かを検討していく必要がある。

 

 

|

« とうとう貸金業者数が2000社を切ってしまった。 | トップページ | 第10回貸金業務取扱主任者試験を振り返って »

企業法務」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1233100/61633209

この記事へのトラックバック一覧です: 平成27年9月15日最高裁判決を検討する。:

« とうとう貸金業者数が2000社を切ってしまった。 | トップページ | 第10回貸金業務取扱主任者試験を振り返って »