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2017年2月22日 (水)

平成29年2月21日最高裁判決(名義貸事件と取消しが認められる条件)

平成29221日呉服名義貸しに関する最高裁第三法廷判決が出された。

222日付の日経新聞38面には、早速「名義した客 支払免除」 「クレジット契約 業者説明虚偽なら 最高裁判所初判断」との記事が出ている。

しかし、ややミスリードではないのか? (長文注意)

判決内容を一言で言うと、「不正な取引である名義貸しの契約でも販売店に利用されたと評価されるときには、不正契約者でも、保護されないとはいえない。ただし、その抗弁が信義則に反しないことが必要である。」というものである。

立替払契約の名義貸しと呼ばれるものには、①販売店の資金調達等の目的を知って協力するもの、②名義借り人から頼まれて、販売店関与なしに行われるもの、③販売店との雇用関係などにより協力するもの、④販売店からの協力要請に応じて行われるもの⑤名義貸しの認識の薄いまま、販売店の主導により「名義冒用」に近い形で行われるもの など様々なものが考えられる。また、立替払契約の前提として売買契約や役務提供契約が存在することになるが、ⅰ)売買契約等が真実の名義人との間に存在する場合、ⅱ)売買契約等も名義貸しの場合、ⅲ)売買契約等が架空契約の場合の3通りが考えられる。

今回の事件の判決は、④でⅲ)であるケースのものと考えられる。

いままでも、⑤のケースにおいて名義貸人の責任がないと判断されることは多かったが、今回④のケースでも、「保護に値しないということはできない」と指摘しただけであり、業者の説明のうそについては、契約締結の動機に関する重要事項と認定され、かつ、それを誤認して契約を締結したこと、抗弁に関しては、無効との主張につき、信義則に反しないことが必要とされており、無条件に、契約の取消しを認めたものではない。

したがって、「告知の内容についての改正後契約に係る上告人らの誤認の有無及び改正前契約に係る上告人らが名義貸しに応じた動機やその経緯を前提にしてもなお改正前契約に係る売買契約の無効をもって被上告人に対抗することが信義則に反するか否か等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」とされたのである

 

しかしながら、本判決は、割賦販売法の解釈と適用を誤った不当な判決と考えられるので、確認してみよう。

判決では、まず、

「立替払契約が購入者の承諾の下で名義貸しという不正な方法によって締結されたものであったとしても、それが販売業者の依頼に基づくものであり、その依頼の際、契約締結を必要とする事情、契約締結により購入者が実質的に負うこととなるリスクの有無、契約締結によりあっせん業者に実質的な損害が生じる可能性の有無等、契約締結の動機に関する重要な事項について、販売業者による不実告知があった場合には、これによって購入者に誤認が生じ、その結果立替払契約が締結される可能性がある。このような過程で立替払契約が締結されたときは、購入者は販売業者に利用されたとも評価し得るものであり、購入者として保護に値しないということはできないということはできないから,割賦販売法35条の3の13第1項6号に掲げる事項につき不実告知があったとして立替払契約の申込みの意思表示を取り消すことを認めても,同号の趣旨に反するものとはいえない。」としている(下線は筆者)。

 

これに対しては、改正の趣旨を拡大解釈しすぎているのではないかとの批判は免れられないのではないか。

 

訪問販売した商品のクレジット契約の取消権の創設に関しては、判決文の指摘するように、「改正法により新設された割賦販売法35条の31316号は,あっせん業者が加盟店である販売業者に立替払契約の勧誘や申込書面の取次ぎ等の媒介行為を行わせるなど,あっせん業者と販売業者との間に密接な関係があることに着目し,特に訪問販売においては,販売業者の不当な勧誘行為により購入者の契約締結に向けた意思表示に瑕疵が生じやすいことから,購入者保護を徹底させる趣旨で,訪問販売によって売買契約が締結された個別信用購入あっせんについては,消費者契約法4条及び5条の特則として,販売業者が立替払契約の締結について勧誘をするに際し,契約締結の動機に関するものを含め,立替払契約又は売買契約に関する事項であって購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについて不実告知をした場合には,あっせん業者がこれを認識していたか否か,認識できたか否かを問わず,購入者は,あっせん業者との間の立替払契約の申込みの意思表示を取り消すことができることを新たに認めたものと解される。」(下線は筆者)にもかかわらず、「名義貸しという不正な方法によって締結されたものであったとしても、(中略)取り消すことを認めても,同号の趣旨に反するものとはいえない」なのか。

 

まず、拡張解釈が過ぎる点の第一として、

 本件は割賦販売法35条の31316号の保護の対象となる「訪問販売」なのか、という点である。

認定事実によれば、「ローンを組めない高齢者等の人助けのための契約締結であり,上記高齢者等との売買契約や商品の引渡しは実在することを告げた上で,「支払については責任をもってうちが支払うから,絶対に迷惑は掛けない。」などと告げて」立替払契約を締結したというものである。

そうすると、「高齢者等との売買契約や商品の引渡しは実在することを告げた」としている点から、高齢者との売買契約についてまで、上告人らは名義を貸したという認定はしていないといえる。真実の売買契約は、高齢者との間に存在することを販売店が告げており、上告人らは、その売買契約の名義貸しを承諾したのではなく、立替払契約について、販売店が「支払については責任をもってうちが支払うから,絶対に迷惑は掛けない。」などと告げたのを信じて、立替払契約を締結したことになる。

仮に、売買契約にも、名義を貸したということであったとしても、自己に商品等の引き渡すことを目的とした契約ではなく、人助けの目的であることが、販売店との間で特約された契約に過ぎないから、特定商取引法211号及び2号に規定する訪問販売ではないのではないか。

 

 1号「販売業者又は役務の提供の事業を営む者(以下「役務提供事業者」という。)が営業所、代理店その他の主務省令で定める場所(以下「営業所等」という。)以外の場所において、売買契約の申込みを受け、若しくは売買契約を締結して行う商品若しくは指定権利の販売又は役務を有償で提供する契約(以下「役務提供契約」という。)の申込みを受け、若しくは役務提供契約を締結して行う役務の提供

2号「販売業者又は役務提供事業者が、営業所等において、営業所等以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させた者その他政令で定める方法により誘引した者 (以下「特定顧客」という。)から売買契約の申込みを受け、若しくは特定顧客と売買契約を締結して行う商品若しくは指定権利の販売又は特定顧客から役務提 供契約の申込みを受け、若しくは特定顧客と役務提供契約を締結して行う役務の提供」

 

②本件は割賦販売法35条の31316号の適用のある「個別信用購入あっせん契約なのか」という点である。

立替払契約は、立替払契約の契約者が販売店に対して負担する売買契約等の債務について、後日返済することを約して、立替払をクレジット会社に委託する契約である。

そうすると、実在する高齢者との売買契約とはまったく別に、存在もしない売買契約(債務は存在しない)にもかかわらず、上告人の債務負担があるとして、クレジット会社に立替払を委託したことにならないか。

 そうであれば、この立替払契約は、商品等の販売や役務の提供を条件とするという割賦販売法の適用のある「個別信用購入あっせん」の定義*に該当しない契約になるのではないか。

 

*割賦販売法24項「個別信用購入あっせん」とは、カード等を利用することなく、①特定の販売業者が行う購入者への商品若しくは指定権利の販売又は特定の役務提供事業者が行う役務の提供を受ける者への役務の提供を条件として、当該商品若しくは当該指定権利の代金又は当該役務の対価の全部又は一部に相当する金額の当該販売業者又は当該役務提供事業者への交付(当該販売業者又は当該役務提供事業者以外の者を通じた当該販売業者又は当該役務提供事業者への交付を含む。)をするととも に、当該購入者又は当該役務の提供を受ける者からあらかじめ定められた時期までに当該金額を受領することをいう。

本件では、立替払契約の名義貸しとの前提で検討されているが、ここでいう立替払契約は、最初から債権債務関係を発生させる意図のない契約を原因とするクレジット会社から資金引き出しを目的としたものであり、そもそも、割賦販売法の適用対象とする立替払契約の形式だけを借用したものであるのに、割賦販売法を適用し、保護の範囲内とする点に大きな違和感を覚えざるを得ない。

 

③購入者保護から逸脱した不正契約者の保護になっていないか。

割賦販売法は、立替払する原因取引は、加盟店である販売店と購入者等との間の売買契約や役務提供契約のように、契約者が販売店に対して支払義務のある債務について立替払いを委託するものである。

認定内容でも、不正な取引である名義貸し行為すなわち、ローンを組めない高齢者に商品を販売した販売店の資金回収のための、すなわち資金繰りを手助けする目的での資金調達目的の契約での名義貸しとされているが、その実質は、売買契約と立替払契約を仮装した資金詐取行為である。本件は、契約者と加盟店が共謀して行わなければ成立し得ない行為であり、契約者が販売店から売買契約は仮装ではないこと、販売店が責任をもって支払うことについて、虚偽とは知らず、契約締結の動機になっていたとしても、自分にクレジット会社に対する債務が一切発生しないことまでを信じていたわけではないと考えられる。

 特に本件では、上告人らはクレジット会社に対する債務の返済のために、口座振替を利用している点をもっと重視してもよいのではないか。

昔の名義貸し事件では、銀行や郵便局振込での返済にしておき、後日販売店が「責任持って支払います」といって、届いた振込用紙を回収し、支払っていました。

しかし、本件では、口座振替払になっています。周知の通り、犯罪収益移転防止法の厳格な施行により、ずいぶん以前から他人名義での口座開設はできません。したがって、本件は、本人口座銀行口座等からの振替が行われており、販売店からの入金により、決済されていましたので、一時的に自分に債務が発生するが、販売店が支払うことを認識して、口座振替手続きに応じていたとしか考えられないのではないか。

また、現在のクレジット契約申込書には、名義貸ししないこと等の注意書きがあり、契約締結時に勧誘方法等の確認が行われており、本件でも、納品受けた旨の確認がされているようである。

この責任を免除するのは、威迫・困惑状態に起これていたか、完全に欺罔状態に置かれている場合が考えられるが、本人は名義貸しをしていること、債務が発生し、自身の口座から弁済のための引き落としがなされることを認識して、契約しており、月々の口座引き落としを通帳で確認できたにもかかわらず、販売店の支払い停止までなんらの申し出がなく、販売店の支払い停止後に一斉に不実告知取消しの申し出がなされたという経緯を見る限り、該当しないと考えられる。

④販売店の説明とその内容の虚偽が取り消し事由に該当するか。

判決では、(告知の)その内容は、名義貸しを必要とする高齢者等がいること、上記高齢者等を購入者とする売買契約があることならびに上記高齢者等による支払がされない事態が生じた場合であっても本件販売業者において確実に上告人●らの非上告人に対する支払相当額を支払う意思及び能力があるといった契約締結を必要とする事情、契約締結により購入者が実質的に負うこととなるリスクの有無及びあっせん業者に実質的な損害が生じる可能性の有無に関するものということができる。したがって、上記告知内容は、契約締結の動機に関する重要な事項に当たるものというべきである。

「以上によれば、本件販売業者が改正後契約に係る上告人らに対してした上記告知の内容は,割賦販売法35条の31316号にいう購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものに当たるというべきである」(下線は、原文まま)とした。

そして、本判決では、「契約締結を必要とする事情、契約締結により購入者が実質的に負うこととなるリスクの有無、契約締結によりあっせん業者に実質的な損害が生じる可能性の有無等、契約締結の動機に関する重要な事項について、販売業者による不実告知があった場合には、これによって購入者に誤認が生じ、その結果立替払契約が締結される可能性がある。」として、不正な取引として一般に周知されている名義貸しの契約であっても、「購入者は販売業者に利用されたとも評価し得るものであり、購入者として保護に値しないということはできない。」として、保護すべき類型があることを認めた。

しかし、「名義貸しを必要とする高齢者等がいること、上記高齢者等を購入者とする売買契約があることならびに上記高齢者等による支払がされない事態が生じた場合であっても本件販売業者において確実に上告人●らの非上告人に対する支払相当額を支払う意思及び能力があるといった契約締結を必要とする事情」というのは、不正な名義貸契約の動機になることは否定しないが、契約当事者外の第三者に対抗できるものなのだろうか?

消費者契約法の媒介の法理、割賦販売法の取消し法理とも、当然に名義貸しという不正な契約を取り扱うことは前提にしていない。販売店がクレジット会社に対する債務を全て責任を持って支払う約束の不履行は、不実の告知には該当しないのは明らかである。また、高齢者との売買契約の存在は、高齢者からの回収を期待できたので、重要な事項に該当する可能性を否定しないが、実際に名前も住所も知らない高齢者からの最終的な回収を期待していたとは到底考えられない。

また、「契約締結により購入者が実質的に負うこととなるリスクの有無」について、その事実を知れば、当然に契約を締結しないクレジット会社に主張できるのか。本件では、そのリスクの見込み違い(販売店の不履行)が生じたに過ぎないのに、対抗できるのか。

そして、「契約締結によりあっせん業者に実質的な損害が生じる可能性の有無」については、予見できなかったということが、不正契約者の主張として許されるのか、仮に取消しが認められたとしても、クレジット会社からの不法行為に対する損害賠償請求が認められる余地が大きいのではないか、など、本件に適用した場合、そのハードルは高いといえるが、どうだろうか。

このような点から、差し戻し審で、信義則に反しないとしてストレートに取消しが認められる判決が出るとは考えにくいのではないか。

しかし、新聞報道のように、認められる可能性があるということで、「名義貸しをしても、うまく言い逃れれば、責任追及を受けない」というへんな考えが蔓延しないか。
特に、販売店サイドに、常連客に名義貸しを頼んでも、口裏を合わせれば、迷惑をかけないで済むから、名義貸しによる違法な資金の詐取を助長する、誤ったメッセージを発信することにならないかが、心配である。

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